CD-Y(迷你专辑)

Mini-Album
CD-Y
Released
2003.04.10
Catalog Number
TUN-2 (LP)
UNDO-002 (CD)
Price
¥1,575
Tracklist
  1. Sheer Lovers
  2. 羽虫
  3. ヒト科
  4. (something extra)
Information

CD-Y is the first mini-album released by YAPOOS. The album was originally a demo tape from the early days.

Transcribed from generasia. Credit by Pikirumuzu.

Produce: 戸田誠司
Engineer: Nobuyuki Honzawa
Recorded at: 月光原スタジオ,Studio Walk. 1998 Nov-Dec
Design: Kiyoshi Inagaki(tristero), Calligraphy: 戸川純
Thanks to: Virgo Music, Masayoshi Yamamiya (平石事務所), OR, Spiral Arts, 勁文社

Reissue Data
YAPOOS:
戸川純
中原信雄
戸田誠司
山口慎一

All Voice performances: 戸川純
All Instruments: 戸田誠司 (Except③: 中原信雄 / 山口慎一)
Lyrics: 戸川純
Music: 戸田誠司(①④), 中原信雄(②③)
Remastering Engineer: Akihiko Shiba (JVC MASTERING CENTER)
Redesign: Shigeo Matsumoto (MATSUMOTO GRAPHIC FARM)
Thanks to: Phew, 小暮秀夫

今までヤプーズがリリースしてきた作品の中でも、『CD-Y』はきわめて特株な性質を持った作品である。そもそもこのマキシ•シングルは、1999年1月におこなわれた東阪ツアー(1/15•心齋橋クラブクアトロ、1/17•渋谷クラブクアトロ)の会場と、一部ネット上でしか販売されなかったという限定商品だ。それゆえファンの間では“幻の作品”としてオークション等で高值で取り引きされるようなこともあったらしいが、それが今回めでたく普及版として復刻される運びとなったというわけである。

リイシューに際して、音質面では24bitデジタル•リマスタリングを敢行。オリジナル盤には付いていなかった歌詞カードが今回新たに付いたのも、ヤプーズマニアにとっては嬉しい限りだろう(オリジナル盤に掲載されていたのは、短編小說『愚行』の全文のみ)。なお、収録されている各楽曲の細かいデータに関しては、本作の企画発案者であると同時にプロデュースもつとめた戸田誠司(元Shi-Shonen/元リアル•フィッシュ/元フェアチャイルド。98年からヤプーズにギターで参加)に話を聞く機会に恵まれたので、氏の発言を交えて検証していくことにしたいと思う。

* * * *

「その頃(98年)って、高い器材とか特別なお金がなくても、家にある器材でCDができるようになった始まりの頃で。僕も一度そういう形態で作ってみたいと思っていたから、それを純ちゃんに言ったら、じゃあ作ってみようってことになったんですよ。ライヴでいきなりCDを売るのも面白いかもねって。あと、もともと僕はライヴ•メンバーみたいな感じでヤプーズに参加したわけじゃないですか。でも僕はレコーディング•アートとしての音楽も好きだから、ライヴをやるだけじゃなくて、レコーディングもやりたくなってくるわけですよ。それで、マキシだったら軽い気持ちで楽しくできそうだなって」(戸田铖司。以下の発言も彼によるもの)

こうした発想のもとさっそく製作に取りかかった戸田誠司は、自身の自宅スタジオである月光原スタジオで「シアー•ラバーズ」「羽虫」「(something extra)」のバック•トラックを製作(「ヒト科」は、中原信雄と山口慎一が自宅で作ったデータを月光原スタジオで調整して仕上げたとのこと)。そして戸川純のヴォーカル録りを外部のスタジオ(スタジオ•ウォーク)でおこない、ミックス•ダウンを経た後、めでたく完成したというわけである。

「この頃は、まだCD-Rって珍しいもので、僕が(バック•トラックを入れた)CD-Rを純ちゃんに渡した時、“これ戸田君ちで作ったの?”って言うから、“これはCD-Rって言ってね”って說明して。そうしたら、“CD-R……。じゃあ、『CD-Y』だ!”って(笑)」

1曲目を飾る「シアー•ラバーズ」は、戸田誠司が作曲•編曲したバック•トラックに戸川純が詞と歌をつけたナンバー。ドラムンべースを変形させたようなブレイクビーツが印象的だ。

「当時、僕の中では、このマキシは走り書きというか習作って感じがあったんで、どういうコンセプトでとかってのはまったく考えなかったね。音的には当時僕が好きだったシンセがブワーッて嗚ってるんだけど、それは当時買ったwaldorfのmicroWAVE XTってシンセが使いたかったから(笑)」

2曲目の「羽虫」は、84年9月に発売された戸川純の単行本『樹液すする、私は虫の女』(現在は、ABC出版より2001年4月に復刊された再編集新装版が入手可)に収録されていた詩を戸川純本人がリーディングし、戸田誠司がバック•トラックをつけたという曲。どこかレトロでノスタルジックな雰囲気が漂う、なんとも不思議な作品である。「これは純ちゃんが朗読しやすいような雰囲気のオケをちょびっと作って、あとで編集したり、オケを作り直したりして仕上げていったって感じだったね」

ヤプーズ王道の大陸テクノ•サウンドが展開される3曲目の「ヒト科」は、中原信雄のペンによる曲。作詞は勿論、戸川純。「さっきも言ったように僕は走り書き的なものをやりたかったんだけど、中原は新曲がヤプーズにできればいいなって思ったんだろうね。この曲は中原と慎ちゃん(山口慎一)がデータを作ってきて、歌入れて、ここ(月光原スタジオ)でおとして、それで終わり。なんて、交流のないレコーディング(笑)」

マキシのラストを飾る「(something extra)」は、これまた単行本『樹液すする、私は虫の女』に収録されていた短編小説「愚行」を戸川純本人が朗読したもの。そのバックで鳴っている、アンビエントとも音響系とも形容できそうなストレンジな電子音響サウンドは、戸田誠司がソフトウェア•シンセを使って製作したものだ。「たしか純ちゃんが若い頃に……若い頃って言うと怒られちゃうな(笑)、すごく前に出した本(『樹液すする、私は虫の女』)をライヴのリハの時に読んだのかな。で、面白かったから、これ喋ろうよっていう。(朗読の途中からバックの音が無くなるのは)叩き台で作ったオケが短くて、途中で終わっちゃったんだろうね。
でも純ちゃんはずっと喋り続けていて、それが良かったっていう。多分そういうことだと思うんだ」

この朗読曲には、いくつかの謎がある。ーつは、なぜ「愚行」という題名がついた小説を朗読しているのに曲名が「愚行」ではなく「(something extra)」なのか。そしてもうーつは、なぜ物語の中盤の部分で朗読が終わってしまっているのか、という点だ。

「僕はあの話は、あそこまででーつ完結してると思ったんですよ。でもその後で純ちゃんが、朗読はあれでいいけど、(話は)それでは完結してないって言い出して。じゃあ文で載せようってことになったんじゃないかな」

なるほど。オリジナル盤の中ジャケット部分に「愚行」の全文が掲載されていたのは、そういう理由からだったのか。そう考えると、曲名が「愚行」ではなく「(something extra)」である理由も、なんとなく見えてくるというものだ。つまり、「愚行」の全文を朗読したわけではないから、文章としての「愚行」と朗読された「愚行」はイコールではない(つまり、それぞれ独立した世界観を持っている)ということなのだろう。

なお、この『CD-Y』には面白い後日談がある。

「このCDを宮村優子かすごく気に入ってね。こういう世界を一つ作ってほしい、って話がその後来て。それでできたのが、「女性的な、あまりに女性的な」 (作詞:戸川純、作曲•編曲:戸田誠司。99年5月にリリースされた宮村優子のミニ•アルバム『鶯嬢』に収錄)。あれも語り入ってるじゃん?」

戸川純とヤプーズのメンバーによる宮村優子への楽曲提供は、その後も「12才の旗」(作詞:戸川純、作曲•編曲:中原信雄)、「秘密結社〜金曜日の黑ミサ」(作詞:戸川純、作曲•編曲:戸田誠司)という形で 続いていくが(この2曲は、99年8月リリースのアルバム『大四喜』に収録)、まさかそのきっかけを作ったのが、この『CD-Y』たとは。いやはや、戸田誠司のちょっとしたアイデアがきっかけとなって生まれた作品にふさわしいエピソードではないか。「98年自宅録音最前線って感じですね。本来デモ•テープなんだよね、(『CD-Y』で)やりたかったのは。フルサイズのCDアルバムが出る前の、一つの走り書き程度のもの。でもちょっと一生懸命やっちゃって、完成度が高すぎたかなってのが、感想なんですけどね(笑)。本当はエンピツの走り書きで出したかったんだけど、思わずワープロで清書しちゃった、みたいな(笑)」

シーケンサー、ソフトウェア•シンセ、プログラミング環境の発達によってコンピューターの中で音楽製作の全工程ができるようになり、製作した音源を誰もが簡単にCDにできる時代。この『CD-Y』は、音楽製作の現場がそうした個人のレベルへとシフトしつつあった時代の(つまり過渡期の)産物である。それゆえ、ここには自宅録音ならではの身軽さ……バンドという形態に縳られない身軽さ、がある。また収録曲のうち、「シアー•ラバーズ」と「ヒト科」は現在製作中のニュー•アルバム『霊長類ヤプーズ品目ヒト科』にも収録を予定。そう考えるなら、おそらくこれはヤプーズにとって、ニュー•アルバムの先行シングル的な意味も持つ作品なのであろう。ただ、限定商品ゆえにすぐ幻となり、さらにはアルバムの完成が遅れに遅れてしまったことで、そうした図式が今までは見えにくくなっていた。だが、今回の普及版リリースによって、その薄れていたつながりは、誰の目にもハッキリと見えてくるようになったはずだ。

「つきつめたコンセプトが無い分、軽い短編集みたいな気持ちで接してくれれば、十分楽しめるんじゃないですかね。 本来こういう短編集みたいなのがいっぱいあってもいいと思うしね」

昨年リリースされたゲルニカのCD BOXやヤプーズのDVD『ヤプーズ計画+2』が予想を上回る好セールスを記録。さらにはこの『CD-Y』と同日に、『ダイヤルYを廻せ!』『ダダダイズム』のリイシュー盤がジム•オルークのライナー付でリリースされる、といった具合に、今や戸川純(とヤプーズ)を再評価する波はさまざまな方面から高まっている。そして、時代のこうした流れは、おそらくヤプーズ本体にも伝わり、良い方向に作用してくれるはずだ。絶対に。

2003年3月/小暮秀夫